■趣旨/狙い
1.危機への備え
私たち有志一同はこの度、日本エシカル推進協議会(略称エシカル協、英語名JEI: Japan Ethical Initiative)を設立することになりました。
有限の生態系である地球と自然と環境(以下、総じて「地球環境」と言う)をはじめ、私たち人類を含む地球社会(以下、総じて「地球環境」と「地球社会」を合成して「地球の環境と社会」と言う)は今、急激な地球温暖化に伴う気候変動とその影響に晒され、このままでいくと取り返しのつかない不可逆な危機に直面して、地球の環境と社会が機能不全に陥る恐れが出てきています。
JEIの究極の狙いは、地球の環境と社会をこの深刻な危機から救うことです。地球の環境と社会のあり方を新しい概念であり、価値観でもある「エシカル」(倫理、良心)をキーワードに洗い直し、塗り替えて、地球の環境と社会が共生し、融け合える不滅の共生文明圏を再構築していくことです。
地球環境の生態系と地球社会の文明系が共生し、融合して初めて機能を全開し、再生しつつ、創出を続け得る持続可能性への配慮を最優先して、いずれの世代の誰もが将来に亘って持続可能性を保全し、継承していかなければなりません。その理想的な共生文明圏を再構築するキーワードがエシカルであり、その推進力となるのがJEIの使命です。
このことは、多事多難な地球的問題群(Global Issues)の中でも最も厄介で、気の重い難題ではありますが、この課題解決はもはや将来世代へのさらなる先送りは許されず、ここは私たち現代世代が世代間の責務と受け止めて、果敢に挑戦していかなければならない命題です。
2.隗より始めよ
それには、隗より始めよです。私たち現代世代の1人ひとりが日常の営みの中で繰り返す意識と行動のすべてをエシカル色に染め上げ、塗り替えて、エシカル志向によるエシカルスタイルへ、いわばエシカル化することに拍車を掛けていくことです。こだわりのライフスタイルをはじめ、衣食住など暮らし方や仕事上の作法、ショッピングやレジャー、ボランティアや地域での諸活動など、生き様のありとあらゆる局面、あらゆるTPO(時と場と場合)の違いを越えて、いわばエシカルライフのすすめを実践に移し、その推進へ率先垂範していくことが先決です。
エシカル化の波は、当初はエシカルファッションなどライフスタイルのエシカル志向が先行して、ビジネス界へ波及してきましたが、今ではCSR(企業の社会的責任)やGSR(Global Social Responsibility)の延長線上で、経営上の重要で、不可欠な戦略課題として急浮上してきました。
それもすべての違いや境界を越えて、エシカル化が責務として求められてきています。需要/消費の立場であれ、供給/生産の立場であれ、原材料の調達から生産、加工、流通、消費から廃棄に至るサプライチェーンの全プロセスで、ものづくりやサービス、卸や小売り、中小や零細/下請けに至るすべてのビジネスアクターがエシカル化への対応を迫られています。
ビジネスアクターに限りません。政府をはじめ、地方自治体など、より多くのパブリックセクターからNGO/NPOなどの第3セクターも含め、この地球上で持続可能性の恵みに与かる、ありとあらゆるアクター各位1人ひとりがエシカル化への対応を責務として受け止めていかなければならない事態を迎えています。
3.今、なぜエシカルか
それにしても、今なぜエシカルなのでしょうか。その主なわけは、次の3点に集約できます。1つには、私たち人間の際限がない欲望を自ら律して抑制、制御していく必要に迫られているためです。2つには、資源の枯渇などによる世代間の不平等に配慮していく必要に迫られているためです。3つには、リスクや被害が地球上の弱者に集中、偏在することで、さらに拡大する貧富格差の是正や弱者救済に配慮していく必要に迫られているためです。
地球温暖化の主因が科学的にも「99%、人間由来である」と立証された以上、その誘因が他ならぬ人間の欲望にあることは自明の理です。その肥大化に歯止めをかけるには、地球上の全アクターがそれぞれの立場で、自らの欲望を自ら律して抑制、制御するための規範や規律が必要で、そのためのエシカル化です。
地球上の生態系とその所産である資源の有限性が判明している以上、近現代世代だけがそれを占有し、搾取を続けて、枯渇させてもいいとは余りにも不公正です。この世代間の不平等を放置することなく、その是正に配慮していくための規範や規律が必要で、そのためのエシカル化です。
持続可能性の劣化をはじめ、地球温暖化とその影響に伴うリスクや被害は紛れもなく途上国をはじめ、島嶼や貧困層など、地球上の弱者の身の上に集中、偏在するため、貧富格差の拡大や弱者救済へ配慮していくための規範や規律が必要で、そのためのエシカル化です。
以上の3点は、いずれも正に倫理性と良心が咎められ、問われて然るべき難題です。時空間を越えての理不尽かつ不条理な話で、エシカル化を推進する上で最も壁の厚い3大課題です。
■キーワード/エシカルとは
1.エシカルとは何か
エシカルとは、英語の名詞ethic(倫理/道徳)の形容詞ethical(倫理的な/道徳上の/(社会規範に照らして)正しい)ですが、今に伝わる今日的なエシカルとはきわめて多義的で、包容力のある新概念であり、新しい価値観として流布しています。源流を辿ると、英国のブレア元首相が80年代末から90年代初めにかけて、外交上の政策過程で道義的、人道的な国際介入を「エシカルアプローチ」と表現したのが始まりでした。
その後の2001年の9.11事件以来、人間の安全保障上、国際社会は絶対的な弱者を「保護する責任がある」との論議の中で「エシカルステイツ」(良心に誠実な国)などと、盛んに使われ出したのが流布への背景でした。
その後の事例でも直訳の「倫理」だけでは狭く、不十分で、より柔軟に「良心的な/良心に誠実な」などの意訳の方が釈然とする使い方をより多く見かけます。この違いは、どこから来るのでしょうか。倫理では、初めに第3者からの客観、他律的な規範ありきで、自発性に欠けています。その点、「良心」であれば、初めに自らの良心に問う主観かつ自律的なセルフチェックありきで、自発性に富んでいる点が大きな違いです。
2.倫理と良心の二面性
しかし、今日的なエシカルの使い方には、客観、他律的な倫理を外圧として、主観、自律的な良心を内圧として、この内外圧の両面性を表裏一体で使い分けている傾向が見受けられます。国連のグローバルコンパクト(地球への誓約)は、国連が人権、雇用、環境、腐敗防止に関する10項目を提示、その達成目標を自ら地球の環境と社会に誓約し、その達成度を年次毎にセルフチェックして、結果を報告するという点で、典型例です。
貧困の克服を目指す国際NGOのオックスファムのケイト・ラワーズ博士らが発表した「人類が安全で、公正に活動できるスペース」に必須なドーナッツ型の内外2重の環も内外圧の二面性の必要性を示唆しています。外側の地球的な境界としては、気候変動をはじめ、生物多様性の消失など9項目に亘る客観、他律的で、自らは制御できない外圧要因を、内側の社会的境界としては水をはじめ、食料、健康、ジェンダー平等性、回復力など、主に主観、自律的で、自ら制御できる内圧要因を挙げています。
これら2つの環の境界条件を最優先で考慮して、グリーンとソーシャルの両方のイノベーションを同時に推進していければ、地球の環境と社会が創り出す持続可能性を劣化させることなく、保全、継承できるとしており、その鍵を握るのがエシカル化である、と考えられています。エシカルな選択は、Happy Choice for All(すべてにとっての幸せな選択)の決め手であるとも言えます。
■必要性/背景
1.利他の心が生き甲斐へ
3.11の教訓は災禍に伴う直接的な衝撃を次第に和らげる一方で、私たちに対し、改めて生き甲斐をはじめ、自己実現のあり方など、人は「何のために生きるか」と言った自問自答を迫る、いわば間接的な衝撃をじわりと広げています。
「生きる」価値を何に求めるべきか。ものから心へシフトして、その豊かさと充実を求めて、生き甲斐の目標を世のため、人のために自分を生かし、お役に立ちたいとの、いわば利他の心とその精神の充実へ、自己実現の質的水準の向上を目指す人たちが急増しています。他人任せの他律から内心から自律へ、価値観の変容です。
2.意識の高い資本主義へ
地球社会には、多種多様な地球的問題群をはじめ、このままでいくと地球と人類が深刻な危機に陥る難問難題が山積しており、その課題解決が急がれています。この課題解決には、いわばパブリック及びビジネスの両セクターだけでは利害調整が難しく、限界があるため、より普遍的な人類益と地球益を優先して行動できる、いわゆる第3セクターの機能と役割が台頭する一方、パブリック及びビジネスの両セクターでも利他の心とその精神で人類益や地球益を優先、重視する配慮が強く求められ、その配慮なしには生き残れなくなるような新時代を迎えています。利潤追求よりもE(環境)、S(社会責任)、G(ガバナンス:透明性)への配慮が問われる、いわばコンシャス・キャピタリズム(意識の高い資本主義)の普及、浸透です。
3.エシカル評価の時代へ
社会的責任に関する国際規格ISO26000の発効(2010/11)とその日本版であるJIS Z 26000の制定(2012/03)以来、経済団体をはじめ、有力企業の間ではその実用化研究と導入準備が進んでいます。この一環で、財務情報と非財務情報を統合した新しい開示手法の「統合報告書」を導入、発行する企業も急増しており、2014年春にはすでに120社を超える勢いです。
国連のグローバルコンパクトへの参加をはじめ、国連ミレニアム開発目標(MDGs)や持続可能な開発目標(SDGs)の達成を積極的に支援、協力する企業も年々、増えています。社会的責任投資(SRI)も欧米を中心に「投資が世界を変え、地球を救う」とのキャッチフレーズで急成長しています。
一方、環境保全とグリーン経済をめぐる国際政治の争点は「共通だが、差異のある責任」(略称CBDR:Common But Differentiated Responsibility)をめぐる攻防に移ってきています。中国は「大きな途上国」との言い回しで、新興国への応分の責任と負担を牽制していますが、地球的問題群の課題解決には地球社会を挙げての応分な責任を世界の国々で負担し合う責務が発生してきました。もはや、すべての国々が「エシカルステイツ(良心に誠実な国)」としての品位や名誉と威信を賭けて競い合うような国レベルの「エシカル評価」の認定制度も必要な時代になってきました。
4.SPPガイドラインの策定は喫緊の課題
国連環境計画(UNEP)は、2012年6月に開催された「リオ+20」(国連持続可能開発会議)で「持続可能な公共調達イニシアティブ」(SPPⅠ)を立ち上げ、2013年1月パリでSPPⅠ国際会議を開催、世界中から46の組織が参加しました。これは、「リオ+20」で持続可能な消費と生産(SCP)に関する「10カ年計画枠組み」を採択、成果文書の中で持続可能な公共調達(SPP)を優先プログラムとして認定した成果です。
UNEPではSPPを「公共機関が製品、サービス、工事、施設を発注する際、その機関のみならず、環境への負荷を最小化しながら、社会及び経済への便益を生み出すプロセスである」と定義しています。我が国にとっても、エシカル公共調達ガイドラインの策定は喫緊の課題となってきました。
5.今こそ、行動を起こす時
国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)がこのほど、7年ぶりに発表した第5次報告書によると、「科学的な根拠」を担う第1作業部会が「地球温暖化は人間の営みが放出した温室効果ガスのせい」と断定し、「影響の調査」を担う第2作業部会では「もはや仮定の話ではない。このままでいくと、世界的な食料危機や生物の大量絶滅など、未来は深刻」で、紛争に発展する可能性にも言及しつつ、国際社会に決然とした対策を迫る内容でした。
これを受けて、IPCCのパチャウリ議長は「気候変動は遠い未来の問題ではない。目の前の現在進行形の問題である。国際社会は今こそ、行動を起こすべきだ」と強い口調で警告しました。
6.新気候突入年の衝撃
米ハワイ大学のカミロ・モラ博士らが2013年10月に公表した新気候突入年(Climate Departure)の詳細な計算結果は、世界を驚かせました。新気候突入年とは、地球温暖化に伴い、世界各地の気候がある時を境に過去150年間とは全く違った新気候に変化して、いわば温暖化地獄に突入し、極端な異常気象に見舞われることです。
地球温暖化はこのままでいくと、全世界の平均値では2047年に新気候突入年を迎えるが、東京、横浜では2041年に、インドネシアなど熱帯地域の諸都市では2020年代に、それぞれ新気候突入年を迎えるとの予測です。熱帯地域では、生物多様性に富むが、気候変動には脆弱で、一人当たりGDP(国民総生産)も低く、人口の過密度も高い。しかも、人間由来の地球温暖化への責任はないに等しい国々が多いにも拘らず、いち早く新気候突入年を迎えるとはいかにも不公平で、気候変動がもたらす弱者いじめの不条理かつ理不尽な現実の一端です。
■JEI発足への歩み
国際グリーン購入ネットワーク(IGPN)が2012年4月に「倫理的購入・CSR調達ガイドライン研究会(略称エシカル購入研究会)を発足、これまでに計7回の研究会を開催、多種多彩な関連テーマを多様な角度から採り上げて、エシカルに関する知見を集約してきたことが、エシカル協設立への礎となっています。
研究会で採り上げたテーマはグリーン購入をはじめ、フェアトレード、FSC、MSC、CSR調達、障害者製品優先調達、エシカルファッション、エコラベル、フェアトレードラベル、社会的責任投資、応援消費、エシカル文化、ソーシャルマーケティング、地域CSR認定など、多岐に亘っています。同12月にはこの成果を『未来を拓くエシカル購入』(山本良一、中原秀樹編、環境新聞社)に収載し、出版しました。
2013年秋の恒例の「エコプロダクツ展」(日本経済新聞社主催)ではシンポジウム「エシカル市場の未来」を開催、2014年2月には札幌市主催で日本初の「エシカル購入国際会議」が、同3月には熊本市で「フェアトレードタウン国際会議」が相次いで開催され、地域からのエシカル熱も高まっています。同4月からは障害者製品優先調達法が施行され、エシカル関連の法制度も整備へ歩み出しました。