第二回エシカルラボより

 

認定NPO法人ACE代表の岩附氏にお越しいただき、当法人の活動についてご講演いただいた。
講演の序盤には聴講者に対して、「子どもの頃の楽しかったこと、好きだったことは?」や、「子どもってすごいなと思ったエピソードは?」など、自身の子ども時代や子どもの役割・本質について考える質問が投げかけられた。
聴講者からは多くのポジティブなエピソードが共有されたが、その「遊ぶ、学ぶ、笑う」などの「あたりまえ」が当たり前でない、児童労働を強いられた子どもたちについて知り、考え、行動につなげる機会となるお話を頂いた。本ラボのテーマである「エシカル」な私たちの生産、消費で児童労働が改善されるということが強調された。

 

児童労働とは

近年日本では少子高齢化が進行し子どもの数は減少傾向にあるが、反対に多くの開発途上国においては子どもの割合が高く、世界的にみると人口の3人に1人が子どもという計算になる。国連子どもの権利条約によると、「子ども」は18歳未満と定義されている。また、本条約においては子どもの権利や児童労働についての原則も定められており、子どもには「生きる権利、育つ権利、守られる権利、参加する権利」がある一方で、自身に関係する政策に関しても参政権がないなど民主主義社会において圧倒的に弱い立場にあるため、親含め行政や国などが子どもを守る必要がある、としている。さらに、本条約においては「働いてよいのは義務教育(原則15歳)を終えてから」と明記されている。

 

児童労働の現状

しかし現状として、世界では現在1億5,200万人の子どもが児童労働を強いられている。厳密には子どもの全体の就労人口は2億5,000万人に上るが、その中でも特に危険であったり、教育を妨げるような環境であったりと、違法となる「児童労働」にあたる人数が前者である。この子どもたちは主に亜パーム油、カカオ、コットンなどの生産、レアメタルの採掘などに駆り出されている。

一般市民がこれらの悪質な児童労働に気づき、身近に感じるようになったきっかけはサッカーボールであった。2002年日韓ワールドカップ開催の直前であったこともあり、メディアの反応も大きかった。この時初めて私たちは、自分たちが使う製品が小さな子どもたちによって作られている可能性があるということを知った。当法人もFTCJとともに2001~2002年にかけて「ワールドカップキャンペーン 世界から児童労働をキックアウト!」というキャンペーンを実施し、実際にサッカーボールを縫っていた女の子を招いて記者会見も開いた。この件をきっかけに人々の関心が高まり、児童労働に関わっていない製品を調べることができるアプリが開発されたり、最近では企業の責任問題にも大いに関わる議題となった。

 

認定NPO法人ACEの活動

前述のキャンペーン含め、当法人では児童労働をなくすための活動を様々行ってきたが、もともとは児童労働などをなくす活動をしているノーベル平和賞受賞者のカイラシュ氏のメッセージに応えるかたちで半年限定のNGOとして当方が学生時代に始めた団体であった。その活動を現在まで20年間続けている理由の一つとして「グローバルマーチ」という活動で出会った、サディス君という児童労働を強いられている一人のインド人の男の子の存在があった。彼は働いた分に対する十分な給料が払われず、虐待も横行する劣悪な環境での労働を強いられていたが、他の児童が同じような労働環境の改善を雇い主に求めて以来行方不明になったことがトラウマになり、労働環境の改善を求められずにいた。そんな彼に自身の将来の夢を尋ねると、「なるものになる、来るもの拒まずだよ」と答えたのだ。サディス君の話から、違法児童労働は子どもが持っていて当たり前の感情や願望をも奪い取ってしまうということを学んだ。

当法人の活動を通して、市場メカニズムを活用した「児童労働に加担しないビジネスと消費モデル」の促進を図ってきた。そのひとつが、森永製菓とのプロジェクトである。「1チョコfor1スマイル」のスローガンで広く知られるこのキャンペーンは、児童労働に加担しない身近な製品をより一般の人々の手に届くことを目的とし、森永製菓とのつながりをつくるところからゼロから作り上げたプロジェクトである。これらのプロジェクトで児童労働を根本から減らすことは時間がかかるが、それでもプロジェクトによって確実にその数が減っていることを考えると、児童労働を無くすことは不可能ではないはずだ。最近では国全体での児童労働撤廃を課題とするガーナ政府との協働で、取り組みについて話し合うためのステークホルダー会議を今年11月末に開催予定である。

 

世界と日本の取り組み
~サプライチェーンにおける児童労働問題~

このような児童労働撤廃の動きは産業や国レベルの展開となり現在のトレンドとして、サプライチェーンのなかで人権を尊重することが問われるようになっている。とくに大企業はサプライチェーンにおける取引先に児童労働含め人権に関する基準に準拠させるよう求められている。多くの先進国は法整備を進め、国連総会においては児童労働を含め違法労働などの撤廃のための行動宣言が発令され、日本もこれに署名した。また近年のESG投資の拡大を受け、環境セクターと同じように児童労働に関しても投資家の関心が高まり、企業にとっても人権の尊重はさらに重要課題となる展開が予想される。

しかしこのような流れがある一方で、日本ではその取り組みが遅れていることが課題として挙げられる。実際、日本企業に対する調査において、準拠を取引先海外企業などから「求められた」ことがあると回答した企業が42.2%であったのに対し、取引先に「求めた」ことがあるという割合は20%ほどに留まった。この結果から現状としては日本企業が世界の基準への準拠を求められる立場にある場合が多いということが分かり、日本が今後さらに積極的に児童労働撤廃に対する意識を高め、取り組みを促進することが求められていると言える。また日本では、国内の児童労働問題に対する危機意識も特に低い。正式な契約を結ぶことなく行われる危険なアルバイトや、JKビジネス、児童ポルノ、援助交際、人身売買など課題は山積だが、これらが児童労働であるという認識自体がない場合が多い。また、それらによる被害者数も正確に把握できていない。当法人はこれらの問題をうけ、今まで活動範囲としていなかった日本での活動も開始した。

 

コットン産業における児童労働

最後に本日は、児童労働が横行しているコットンの生産について取り上げたい。現在世界で使用されるコットンの8割が発展途上国で生産されており、その中でもインドでの生産量が一番多い。インドでは広く児童労働が行われており、その労働環境も劣悪である場合が多い。多くの問題があるが、そのうちのひとつが農薬問題である。インドの全農地に占めるコットン農地の割合は5%であるにも関わらず、国内使用農薬の54%がコットン農地に散布されているというデータがある。朝から晩まで受粉作業や収穫などを行う子どもたちは農薬が大量に撒かれた農地での長時間労働を強いられ、それにより得る収入が1日たったの300円である場合もある。このような劣悪な児童労働の横行には、資金的困窮から賃金の安い子どもを欲する地元雇い主(農家)の需要と、自身も教育を受けず、子どもの教育の必要性を理解していない貧困家庭による供給という要因がある。女子児童を持つ親は特に、児童婚に必要な資金調達のために子どもを労働力として働きに出す傾向がある。

これらのコットン生産における課題解決のためには、需要側の農家、そして供給側の家庭(親)、その両方に働きかけることが必要である。たとえば農家は、生産性向上のために農薬を使用し始めるが次第により多くの農薬が必要になり結果的にさらに経済的困窮に追い込まれるという悪循環に陥っているため、オーガニック生産への転換を支援する必要がある。これにより地質改善だけでなく、「自身が健康になった」という声も実際に聞かれた。また児童の親に対しては、子どもが教育を受けることの必要性を理解してもらい、同時に児童労働なしで生活していくための支援が必要である。ある家庭では、もともと所有していた家畜のミルクを売ることで収入を上げ、経済的に困ることなく子どもを児童労働から解放することができた。この母親は、「今まで考えたことがなかったが、今はどうしたら子供が学校に行けるか考えるようになった」と話した。

 

私たちの生活と児童労働

これらの児童労働問題は、日本に住んでいる私たちにとっても無関係なことではない。
児童労働をなくし、「遊ぶ、学ぶ、笑う」という当たり前のことを世界の子どもたちに実現するためには消費者のわたしたちがサプライチェーンにおける現実を知り、購買行動を変える必要がある。
身近な商品に潜む児童労働のリスクを知り、「エシカル消費」を意識したい。

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