株式会社レスポンスアビリティ 代表取締役 足立直樹
もっとも被害を受けるのはサプライヤーの労働者
大きな災害が起きるといつも、今まであまり表に出なかった問題が一気に顕在化し、もっとも弱い立場の人々がもっとも被害を受けます。今回のコロナ・パンデミックも残念ながら例外ではありませんでした。
国際的なサプライチェーンが分断されると、私たちが海外からの輸入に頼っていた多くのものが入手できなくなりました。マスクや消毒用アルコールを入れるプラスチックボトルなど、今本当に必要なものまで入手できなくなったことは、地球上に長く伸びたサプライチェーンの脆弱さを露呈したと言えます。
一方で、今回はサプライチェーンの上流側でも深刻な問題が起きました。世界中の人々がロックダウンで自宅に留まり、店舗で買い物をすることができなくなったため、様々な商品の売上は急降下しました。これはサプライチェーンの上流にも、当然大きな影響を与えます。先進国の消費者のために安い賃金で商品を作っていた人々が一気に仕事を失ったのです。
しかし、アパレル業界は今回、非常に素早い動きを見せました。たとえば国際NGOのエシカル・トレーディング・イニシアティブ(ETI)は4月6日に加盟企業に向けてガイダンスを発行し、発注済みの契約は破棄せずに代金も早期に支払うことや、資金繰りや生活費に苦しむサプライヤーの従業員を支援するために期日前の支払いを促すなどしました。また将来の発注についても、できる限りキャンセルを行わないことを求めています。
個別企業も、たとえばファストリテーリング、NIKE、H&Mなどのグローバルブランドは、発注済み商品の購入の履行を確約し、それ以外にもサプライヤーの支援を行うことを表明しています。
これまで10年以上にわたってサプライチェーンの労働者をどう守るか、どう配慮するかということを考えてきた結果が今回の素早い行動につながったのでしょう。そう考えると日頃からエシカル消費を進めて来たことは、この非常時に大きな力を発揮し、被害を最小限に抑える効果があったのです。
アメリカ企業はどう対応しているのか?
もう一つ、日頃の企業経営の思想が大きな違いをもたらした例を紹介しましょう。それは、アメリカです。アメリカでは「企業市民(corporate citizenship)」という考え方が広く根付いていることもあり、操業している地域社会への貢献に熱心です。そうした影響だと思うのですが、JUST Capitalがアメリカの大企業100社について調査をしたところ、新型コロナへの対応として、地域への貢献活動(食品等の寄付、学校へのソフトウェアの無償提供など)を行なったところが62%、さらに地域の困窮した人々を救済するために資金を提供した企業も49%に上っています。
また、同じ調査によると顧客の支払いを猶予したり割引いた会社が64%、サプライチェーンへの影響を緩和するよう務めた会社は27%だったとのことです。もちろん自社の従業員への配慮もいろいろ行なっており、レイオフ(一時解雇)は7%に過ぎないと言います。大企業だから余裕があるということかもしれませんが、アメリカ企業のドライな印象とはちょっと異なる結果だったかもしれません。
コロナ後の社会をどうするのか?
日本では、先日、全国で緊急事態宣言が解除になりました。これから少しずつ、私たちは日常を取り戻そうとしています。しかし、経済への影響が本当に出て来るのはまだこれからでしょうし、コロナの第二波、第三波もあるかもしれません。
そんな中で注目したいのは、欧州ではいち早く4月はじめの段階から、コロナ後にどう回復するかを考えていることです。コロナ前の世界にただ「戻る」のではなく、より良い回復をしよう(Building Back Better; BBB)が合い言葉いなりつつあり、また官民が連携してグリーン・リカバリー・アライアンスも作られています。
グリーン・リカバリーとは、経済を回復するために大規模な投資が必要なのだから、どうせだったら環境に配慮した投資を行い、一気に環境に配慮した経済に移行しようという戦略です。これはエシカルの視点からも歓迎すべきところですが、欧州のグリーン・リカバリーでは、気候中立、生物多様性の回復に加えて、食と農業システムの見直しが三本柱とされており、人々の生活をどうサステナブルにしていくかというエシカルな視点が強いことがわかります。
私たちはどうするのか?
さて、それでは日本はどうでしょうか? 私たちはどう行動したらいいのでしょうか? あなたの身の回りでも、この数ヶ月の間に多くの店が閉じ、職を失った方々もいらっしゃるはずです。その中で、私たちはどうコロナ後のニューノーマルに移行したらいいのでしょうか?
少し残念に感じるのは、日本では企業は自社の従業員や顧客の健康や安全を守ることには非常に注意を払っているように見えますが、それ以外のこと、つまりサプライヤーや地域の支援はあまり目立たないことです。もちろん中には頑張っている企業もありますが、これをもっと大きなうねりにしていくためには、私たちが声を上げていく必要があるでしょう。
またコロナ後についても、早く経済回復をしようという声は聞こえても、その先にどのような経済や社会を目指そうという声はあまりないようです。政府のいう「新しい生活様式」は感染を防ぐための工夫でしかなく、新しい社会像ではありません。ここはやはり私たちが大きな声を上げ、よりエシカルで人に優しい、そしてよりサステナブルで長期的に安心できる社会を目指していくことが重要でしょう。
冒頭で述べたように、これまで進めてきたエシカル消費の流れは、企業の思考に確実に影響を与えてています。だからこそ今回のパンデミックにおいても、グローバルブランドはサプライチェーンへの支援をすぐに行えたのです。非常時だからエシカルどころではないではなく、非常時だからこそエシカルな視点で考える。そして、そこからの回復においてもエシカルな視点を持つことが重要なのです。
その上で、私たち個人はどういう行動ができるのでしょうか? まもなく皆さんの手元にも10万円の特別定額給付金が届くと思います。そのお金が比較的自由に使えるということであれば、それを地域で使うことを考えてはどうでしょうか。つまり全国チェーンのお店やレストラン、カフェではなく、地域の個人商店で買い物をして、食事をするのです。今回のパンデミックでより大きな影響を受けたのは、地域の個人商店や零細企業です。残念ながら既に破綻してしまったところも少なくありませんが、いまあなたがお金を使えば、なんとか復活できるお店もあるのです。
もし一人ひとりが地域のお店からモノやサービスを買うようにすれば、それは特別定額給付金を手にした一人の市民の生活を助けるだけではなく、その支払いを受けた地域のビジネスを助けることになり、2倍の効果を持つことになります。さらにはそうやって支払いを受けたお店もその地域のものを仕入れる。こうした連鎖が進んで地域の中でお金がぐるぐる循環すれば、コロナの影響で壊滅的になった地域経済を救うことになるのです。
このように意図的に地域でお金を使うことは、地域経済を立て直すだけでなく、今後またパンデミックや自然災害などが私たちを襲ったとき、私たちの生活を守ってくれることにもなります。地産地消の割合が高い程、グローバルなサプライチェーンからの影響が少なくなるからです。(※)
もちろん、グローバル・ブランドには今まで以上にエシカルになることを求め、そうした取り組みをしている企業から商品を買うことも重要ですが、自分が根ざして暮す地域のお店を応援する。そのことが、今もっとも必要で、誰にでもできるエシカルな行動ではないでしょうか。エシカルであるために重要なのは弱い立場、辛い思いをしている人々を思いやる視線です。サプライチェーンの先にいる人々を思うのと同様、すぐ身の回りで私たちの生活を支えて来てくれた人々に今こそ配慮をする時です。それがエシカルな社会を実現すると同時に、コロナ・パンデミックを乗り越える大きな力になるでしょう。
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